別にこの前の話と繋がっていません。シャーリィ回想でシャーリィ→クロエ〔笑〕 あとがきとしては・・・、すいません。こんなの書いて。としかいえません。
「静かな足音-2-」
綺麗な人だと思った。本当に綺麗で、まっすぐで、その視線に釘付けになった。
その人の背筋はピンと伸び、短くも艶のある黒髪から覗く黒い瞳は、穢れを知らないようにまっすぐに前を見ていた。自己紹介を軽くしたときの、優しそうな可愛い声・・・。
「どうした? 私の顔に何かついているか?」
「あ・・・。いえ・・・」
じっと顔を見つめるなどと失礼なことをしていた。それに気付いて、シャーリィは慌てて目をそらした。兄が他の人と行動していることは、とても珍しいと思って見つめていたのか、ただ単に見とれてしまっていたのかは、今になってはシャーリィにはわからない。胸に手を当てると緊張したときと同じように鼓動が早くなっていた。
――この人が、私を助けるために・・・?
これだけの見知らぬ人達が、自分を助けに来てくれたという事実に驚いていた。兄であるセネルは警戒するように時折彼らを厳しい目で見ているが、シャーリィにとってはこの好意を素直に受け入れたいと思っていた。
実際に話してみると物腰も柔らかく、素直にシャーリィは好感を持った。村の外に出てからというもの、同性であってもこうして話すことは滅多に無かった。いや、村の中でも気軽に話せる相手というと姉以外にはいなかったかもしれない。だから、こうしてクロエやノーマと話をすることはシャーリィにとってとても新鮮で、浮き足立つように嬉しかったのだ。
ただ場所は気づくと洞窟の中にいて、そうやって喜んでいる場合ばかりではなかった。一度、モンスターと会い戦闘が始まれば、クロエはすぐに前線に出て帯刀している剣を振るう。ノーマは後方で爪術を唱える。何も出来ない自分が、セネルと二人で旅をしていた時よりももどかしく感じていた。
「あっ!」
ガルフの突進を受けて、クロエが後方に転ばされた。そのガルフは次の瞬間、近くにいたセネルに殴られ悲鳴を上げたが倒れてはいない。慌ててシャーリィがクロエの傍に駆け寄ると、剣を棒にしてクロエが起き上がろうとしていた。
「だ、大丈夫ですか?」
シャーリィは手を伸ばして体制を立て直す手伝いをした。
「大丈夫だ。心配をかけてすまないな」
肩を抱き起こすと表情は苦しげだが、クロエは口元に笑みを浮かべると立ち上がりモンスターに向かっていった。シャーリィは戦闘が終わるまで、祈るような気持ちでその姿を見つめていた。
「さっきはありがとう」
隊列を組み、近くを歩いていたクロエがシャーリィに話しかけてきた。思いもしない方から話かけられて、シャーリィは慌てて振り返った。後ろにはクロエが柔らかい表情を浮かべて歩いていた。クロエは少し足早に歩くとシャーリィの隣に並んだ。
「え・・・。で、でも、迷惑ではありませんでしたか?」
あの時、シャーリィは思わず前に飛び出していた。過去に、セネルに同じようにした時は「危ないからさがっているんだ」と注意された。その時は、寂しいような思いをしていた。今だって、思わず飛び出してしまったが、後で叱られるのではないかと縮こまっていたのだ。
「ん? どうして迷惑だなんて思うんだ。シャーリィが抱き起こしてくれたおかげで戦線に早く復帰できた。感謝こそすれ、迷惑だなんて思うわけ無いじゃないか」
シャーリィのそんな悩みを振り払うかのように、クロエは笑った。想像と違う答えが返ってきて、シャーリィは豆鉄砲をくらったような顔でクロエを見つめた。
「どうした、シャーリィ」
シャーリィが黙ってしまったので、クロエは小首をかしげた。黙ってしまっていることに気がついたシャーリィは慌てて首を横に振った。
「い、いえ・・・。なんでもないです。そんな風に感謝されるなんて思ってなくて・・・。クロエさんもあまり無理をしすぎないで下さいね。お兄ちゃんと一緒で心配です」
「わかった。肝に銘じておこう」
そう言ってクロエは誓うように、胸元に右手を掲げた。その様子はとても様になっていた。
背筋はピンと伸び、姿勢も視線もとてもまっすぐで、それでいて話の物腰はとても柔らかかった。その後、連れ去られて、色々とあった後にまた会えるようになったけれど、その姿勢は変わらず、今でも素敵だと思っている。
――ありがとう、クロエ。あなたが、私の友達で良かった。
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