:レビン話:
「ジンバルト・・・。死んだんだって?」
「自ら命を絶ったみたいです。自分の手は汚れていると、生きていくことはできないと」
それだけ答えるとリタリーは後ろを振り返った。その視線の先には昨日の風の砦が見える。
――自分の手は、汚れている・・・か。
審判の音が迫ってきているように、レビンは感じた。わかっていることだった。200年前に命じられて虐殺を行ったことも、10年前にエルスバーグ共和国を滅亡させたことも、許されることなどではないと。ジンバルトも自分の命で罪を償った。それなら自分も償うべきじゃないのか?
――もう、終わりかな。けじめをつけるべきだよな。
一歩一歩がとたんに重く感じた。
「レビン? どうしました?」
「レビンさん?」
「へ!?」
後ろを歩いていた二人が同時に声をかけてきた。 慌てて後ろを振り向くとドリーシュは心配そうに、リタリーは普段の表情があまり読めない顔を歪めて、レビンを見ていた。
「ユーフォリアが心配なのはわかりますが、今は彼に任せておきましょう。水棲族の女王には治癒の力があると聞きます。きっと、大丈夫です」
「あの。わたくしでも力になれることがありましたらなんでも言って下さい。話すだけでも楽になることがあると思いますの」
「あ、い、いや。その・・・」
ドリーシュが真っ直ぐにレビンを見ていた。動悸が思わずあがって、何か言おうとしてもレビンは言葉をうまくつむぐことが出来なかった。それを見て、リタリーは微笑むと、先へ歩いていった。
いつもなら気を利かせた行動だと思ったりもするのだが、この時ばかりは恨むような気持ちになった。
――置いていくなよ、リタリー!
悲鳴を思わず上げたくなったが、当のリタリーはそ知らぬ顔で先を歩いていたメンバーに加わっていた。レビンとドリーシュは振り返ったときに足を止めたままだった。心配そうに、ただ心配そうにドリーシュはレビンの言葉を待っていた。真摯で真っ直ぐな瞳は、逆に今のレビンにとっては辛いものだった。
――俺が世界を喰らう者だって言ったら、楽になれるのか?
そんな考えが一瞬頭をよぎった。
――でも、言える訳ないよな。
「だ、大丈夫だから。俺なら大丈夫だよ! ほら、だって」
「だって?」
ドリーシュは首をかしげた。
「あ、いや・・・その。ド、ドリーが・・・、仲間がいるだろ! 今までなんとかなってきたんだ。なんとか・・・なるさ! い、行こうか。みんな先に行っちまった」
そう言ってレビンは笑った。最後の方はやけくそ気味だったが、話しかけたときの落ち込んだ感じが見られなくなってドリーシュも小さく笑った。
「そうですね。では、参りましょう!」
すれ違ったまま、打ち明けられないまま、運命の歯車は非情にも時を刻む。
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