:前の続きだけどそうでないような:
両脇から体を締める圧迫感から抜け、犬の形をしたそれは空を見上げた。真夜中であるが故に、黒く染め上がった大空で、ひときわ明るく満月が輝いていた。しかし、周囲の町の明かりのため、その美しさは自然の中で眺めるものよりも劣って見えた。
それは犬というよりは狼に近い風体をしていた。青みがかった灰色の毛は泥に汚れているものの月の光を艶やかに反射し、真夜中だというのにこの獣の存在感を周囲から浮き彫りにしていた。また、獣が持つ深紅の瞳には知性の輝きがあった。それは体を震わせると居場所を測るように、周囲に目を走らせた。
獣が見た世界は、極端に言えば白と黒で多い尽くされていた。灰色のコンクリートと、漆黒のアスファルトが織り成すモノクロの世界には、道路に沿うように生える街路樹を除けば草木はない。道路には思い出したように路上駐車された黒塗りの高級車が止まっている。
獣は自分が通ってきた道を振り返った。闇を吸ったビルの隙間は、様々な黒を塗りたくったように真っ暗で、月の光も、それの目を持ってしても先が全く見通すことが出来なかった。
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