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2025/05/07(Wed)03:40
超趣味に走る雑記帳改め小屋的ブログです。 思いついた小ネタ、アニメ感想、ゲーム感想、その他もろもろをざーっと無節操に書くネタ帳兼日記でございます。
2025/05/07(Wed)03:40
2006/12/27(Wed)00:41
「勝手に泣いて勝手に笑って」
何がまずかったかといえば、それはまず料理の腕であったことは間違いない。それは、自分でも嫌というほど自覚している。しかし、何がどう間違ったらこのような結果を招くのかは、甚だ理解をできる範疇を超えていた。さながら、料理というよりもそれは一種の薬物に成り上がっていた。
そして、それを横から様子を見に来たチェスターが面白半分で味見をしたのである。
「お前、ちゃんと味見をしているのか?」
とか軽口を叩きながら。
自分の料理のもっとも困難な所は、見た目と匂いはおいしそうに出来上がっていることなのだ。だから、そこまで危険とは感づきにくい…。目を回したチェスターと出来上がった鍋を見比べて、アーチェは唸った。
――今まで不味いとは言われたけれど、食べた途端目を回すってことは…、一応初めてだよね。
いっその事、料理ではなく対魔物用のアイテムとして使った方がマシかもしれない。そこまで考えが及んで、アーチェは肩を落とした。何故こうなるのか。と。
取りあえず、チェスターを起こさなきゃならない。アーチェは鍋の火を止めると、目を回しているチェスターを揺すった。
「おーい。チェスター。あんた、起きなさいよー」
「うーん」
一応、目はすぐさました。頭を強く打ったときのように、頭に手を当て首を横に振りながら、ゆっくりと起き上がる。
「オレ、一体どうしたんだ?」
「どうしたも何もないわよ。あんた、あたしの料理を食べたんじゃない」
「は? 料理…」
視界の中にアーチェを定めると、チェスターは途中で言葉を切った。不自然なその動作に、アーチェも思わず顔をしかめる。
「どうしたの? ひっくり返った時にどっか頭でもぶつけた?」
「……可愛い」
「は?」
あまりにも場違いな言葉にアーチェは何を言われたのか理解できなかった。チェスターも自分が何を言ったのか、を理解していないらしい。言った後の微妙な沈黙で、自分が何を言ったかに気付き、顔を真っ赤にしてそむけた。
「なななな…何言ってんだ、オレは!」
「あんた、本当にどっかぶつけて悪くしたんじゃないの?」
こうゆう時冷静なのは、いつもチェスターだった。だが、そう思えないほど取り乱している。
「んなことはない! 意識だってハッキリしている。なのに、なんつーか、その…」
その赤くなっている顔を回り込んで、アーチェが見た。本当に耳たぶまで真っ赤になっていた。目と目が合うと、それこそさらにチェスターの顔は赤くなった。
「落ち着かねえんだ! お前が傍にいると!」
悲鳴を上げるようにして唐突に起き上がった。そのまま逃げようと背を向ける。
「アイスニードル」
咄嗟に放った魔術が、見事チェスターの足止めをするように手前の木に突き刺さった。おかげでチェスターの足は止まった。
「何しやがるんだ!」
「あんたが逃げようとするからじゃない。大体、何が起きたのかあたしはさっぱりなのよ」
「オレだってさっぱりだ! お前、何を作った!?」
「普通に料理を作っていただけじゃない。なのに、どーして、逃げるのよ!」
と、脅すように呪文を定める手を凶器のようにちらつかせる。
「あ……。いや、だからその…。取りあえず近づくな!」
近づくなと言われれば、近づきたがるのが人間の本性である。面白いおもちゃを見つけたように、猫のように素早く足を止めたチェスターの所に駆け寄った。
「へへーん。もう来ちゃったもんね」
得意げに胸を張るアーチェに対し、チェスターは観念したようにため息をついた。いや、息を整えようとしたのかもしれない。
「……頼むから逃がしてくれねえ」
「だーめ。大体、なんで逃げるのよ! 訳が分からない!」
「……こうゆう時、お前って本当に魔女だよな」
「へ?」
言っている意味が分からず顔を上げた時だった。アーチェのすぐ前にチェスターの顔があった。それは、本当に一瞬だった。起きたことが信じられず呆けている間に、肝心のチェスターはさっきの脱兎のごとくの勢いで、茂みの方に逃げていった。
「な、何よ、それ?」
今度は追いかける気力も無く、アーチェはその場にへたり込んだ。その顔は、さっきのチェスターと同じようにみみたぶまで赤くなっていた。
それから少し経って、アーチェの料理は破棄されることになった。誰に相談したのかわからないが、クラース曰く「アーチェも魔女のはしくれなんだなあ」だそうだ。ちなみに、近くにいた小動物に試しで食べさせると、その目に始めに映ったミントにやたら懐いたという・・・。
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