:振り返り振り返り、何度も見る夢。小さい頃から今に至るまで、何度か見ている。そんなものがあなたにもありませんか:
布団にもぐりこむ。焼けた青草の匂いがかすかにあって、今日は太陽のもとにあったんだと、胸の中で母に感謝する。眠るとき頭に浮かんでくるのは、その日一日の出来事ではなく、どこにあるのかわからない芝生で覆われた丘の上に立つ、一本のケヤキの木。秋でも冬でも心の中に立つその木は、四月に見られるような新緑を茂らせて広い青空を背景に堂々としている。
中学のとき、理由もわからなく眠れなくなる晩が幾度もあった。眠りたいのに眠れない。焦る必要なんかきっとどこにもなかったのに、眠れないことに焦っていた。きっと夜の静けさや、真っ暗になった世界が怖かったんだろう。そうゆう時は、どこにあるかもわからない風景を想像して目をつぶった。まぶたの裏には、夜とはかけ離れた世界がかたどられるようになった。
今はもうそんなことはないけれど、時々あの風景を見る。どこにあるかわからないあの風景は、穏やかで暖かくて、それでいてまぶしかった。夜中に光る私だけの太陽。
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