一年以上前の自分のオリジナル作品を読み返して、あああーこんなこと書いていたんだ。とか、続き書かずにこれ放置していたんだ~。とか思いながら自分の作品を笑って見ていました。色々とあーだこーだ書いていたんですね。
そんな訳で暑さに負けつつ少しだけオリジナルをまた書いてみました。さっきまで「時をかける少女」を見ていたので、あー、恋っていいね☆ とか考えつつ書いてみたり。でも、そんな話じゃないです。
自作:「檻の中の恋」
「大好きなんですよ。好きだからこそ守りたいものがある」
晴れやかに語ったクロの顔は、この牢獄の中でとても輝いていた。ダヌはそれを聞いて表情を複雑に歪ませた。ダヌはクロが持つその想いをうらやましく思っていた。そして、なぜかダヌは泣きたいような胸が締め付けられるような感情に顔をゆがませた。
――悔しいじゃないか。クロにはこんなに思える人がいて、俺にはいないなんて。
その感情をダヌは醜い感情と断定していた。わかりやすく言うなら嫉妬。しかも、期間限定的だ。彼らの命は明日の午後には散る予定なのだから。
「会ってどれくらいだったっけ?」
「3日じゃないですか? 私たちがここに入れられてすぐに会ったのですから。それに…時間がないことくらい私も承知していますよ。だから、こうやって思い切っていける。思いも告白できる。以前の私でしたら、きっとそんなことしないと思いますけど」
と苦笑い。クロがおどけてみせたのでダヌも気分が少し救われた。
微妙な沈黙。その沈黙を打ち破ったのは二人が予想しなかった合いの手だった。
「よし! その意気だ! 俺はとことん応援するぞ!」
そのあまりの大声にダヌとクロはびっくりして振り返った。部屋の隅で話していたがその会話は筒抜けだったらしい。同じ部屋に押し込まれている面々がにやにやと笑ってこっちを見ていた。その中でも大柄な男が前に歩み出てきた。ビレット。いわゆるガキ大将的なこの部屋のまとめ役である。少し伸びてきたぶしょうびげをさすりながら、豪快な笑みを浮かべていた。
「旦那…」
「いいじゃねえか。恋にスリルに大ばくち! やっぱ人生ってもんはこうじゃねえといけねえよな! 本当なら祝禅酒を飲みかわしたいところだけどよ、俺たちには手ですくう水しかねえ」
大仰にビレットはその手ですくった水を飲むふりをしてみせた。それを見て、他の連中も大笑いをした。
「なら、水でいいんじゃねえか?」
誰かが言った。
「景気づけに一発歌おうぜ! お、そういやそれでクロはもう告白したのか?」
とってつけたように、また誰かが言った。
「あ…。いえ、まだ…。その、これから言おうかと……」
急にまた話が自分に戻ってきて、クロは顔を赤く染めながらぼそぼそと答えた。
「それじゃあ、酒はまだかー。ほら、さっさと言って来いよ」
最期の後押し。それを言ったのはダヌだった。ダヌの心から不思議とさっきの感情は消えていた。ビレットが笑わせてくれたからかもしれない。
背中を押すとクロはそのまま鉄格子へと歩いて行った。隣の鉄格子のなかには彼の意中の相手。金髪碧眼の美少女のエレーヌがいた。彼女もまた、明日の夕方には命を散らす存在だ。二人はぼそぼそと話をしているようだったが、その内互いに顔を染めながら鉄格子を離れた。戻ってくるクロの表情を見れば結果は明らかだった。
「そうだよな。俺には、俺たちにはこれからがある」
ダヌが胸に秘めた希望。この部屋の、そしてこの収容所に誰もが持っている小さな希望。
その可能性は決してゼロではない。ダヌにとってはそれだけで十分だった。すべては、明日。
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